抗がん剤の副作用【脱毛】

精神的にもつらい副作用【脱毛】

脱毛は抗がん剤の代表的な副作用として知られています。生命に直接関わる副作用ではありませんが、外見の変化にショックを受けたり、他人からがん患者であることがわかってしまうつらさを感じたりするため、患者さんにとっては精神的負担の大きい症状の1つです。抗がん剤治療を受けると、なぜ脱毛が起こるのでしょうか。その原因や発症時期、予防法・対処法についてまとめました。

脱毛が起こる原因は?

脱毛は、毛根にある毛母細胞(毛を作る元になる細胞)が抗がん剤によってダメージを受けることで起こります。毛母細胞は全身の細胞のなかでも分裂速度が速いため、抗がん剤の影響を受けやすいのです。

「抗がん剤治療=脱毛」というイメージが強いと思いますが、抗がん剤の種類や投与量、患者さんの状態によって症状の出方には大きな差があり、実際は、抗がん剤治療を受けたからといって必ずしも脱毛が起こるわけではありません。ドセタキセルやエピルビシンのように高確率で脱毛が起こる薬もあれば、フルオロウラシルやシスプラチンのようにほとんど脱毛が起こらない薬もあります。

脱毛は髪の毛だけでなく、全身の体毛にも症状が現れます。抜け方には個人差があり、場合によってはまつげや眉毛が抜けてしまうこともあります。しかし、治療が終了すれば毛母細胞は再生するので、症状は一過性です。時間が経てば必ず回復するので、焦らず、安心して治療に取り組んでください。

抗がん剤による脱毛には2種類ある

髪の毛は毛根にある毛母細胞が分裂することで成長します。髪の毛の一生には「成長期」「退行期」「休止期」という3つのフェイズがあって、これを周期的に繰り返しながら再生を続けています。この周期を、毛周期=ヘアサイクルといいます。

【髪の毛のヘアサイクル】

「成長期」:毛母細胞が盛んに分裂して髪の毛が伸びる期間。毛根の90%は成長期にあるため抗がん剤の影響を受けやすい。

「退行期」:毛母細胞の分裂が止まり収縮する。毛穴の奥で新しい毛根をつくる準備が始まる。

「休止期」:新しい毛根ができるまでのインターバル。成長の終わった毛が自然に脱毛する。

抗がん剤による脱毛には、影響を受けるフェイズによって「成長期脱毛」と「休止期脱毛」の2つがあり、それぞれ次のような特徴があります。

●成長期脱毛

細胞分裂の活発な成長期の毛母細胞が、抗がん剤によってダメージを受け、毛根が壊死することによって脱毛が生じます。わたしたちの毛根の90%は成長期にあるため、抗がん剤による影響を受けやすく、一般的に抗がん剤の副作用として知られている脱毛は、この成長期脱毛にあたります。

●休止期脱毛

抗がん剤の治療後に再生した毛母細胞が、成長期からすぐ休止期に入ってしまうことで、毛髪が育たずに抜けてしまうものです。原因はよくわかっていません。休止期脱毛は成長期脱毛で毛が抜けてしまったあと、新しい毛が生え替わるタイミングで起こるため、副作用として自覚しにくいようです。

脱毛はいつごろ起こる?

「成長期脱毛」は一般的に、抗がん剤投与後2~3週間後に起こることが多いようです。

「休止期脱毛」は抗がん剤の投与が終了してから2~3ヵ月後、新しい毛が生えてきた時期に起こりますが、成長期の毛母細胞が休止するまでの期間はまちまちなので、発症時期をはっきり限定することはできません。

脱毛が副作用として現れやすい抗がん剤

抗がん剤の種類 一般名 商品名
タキサン製剤 パクリタキセル
ドセタキセル
タキソール
タキソテール
アントラサイクリン系
抗がん性抗生物質
アムルビシン
ドキソルビシン
エピルビシン
カルセド
アドリアシン
ファルモルビシン
アルキル化剤 シクロホスファミド
イホスファミド
エンドキサン
イホマイド
トポイソメラーゼ阻害薬 イリノテカン
エトポシド
カンプト、トポテシン
ラステット、ベプシド

脱毛という副作用が出ることを前提に、予防法や対処法を見て行きましょう。

脱毛しても快適にすごせる準備を整えよう

残念ながら現段階では、薬やその他セルフケアによって脱毛を予防する方法は確立していません。しかし、抗がん剤の副作用で髪の毛を失ってしまっても、時間が経てば必ず再生するので、まずは、脱毛している間を快適にすごすための準備を整えましょう。

脱毛が始まるまでに準備しておきたいこと

●帽子やバンダナ、ウィッグを用意しておく

髪の毛の代わりに頭皮を守る帽子やバンダナを準備しておきましょう。帽子は、深くすっぽりかぶれるニットキャップがオススメです。生え際までカバーすることができ、抜けた髪が散らばりません。

ウィッグを使われる方は治療開始前に、早めに用意しておくようにしましょう。セミオーダーやフルオーダーの場合はできあがるまで時間がかかります。ウィッグはおおげさだけど髪は足したいという方は、帽子やバンダナとエクステの組み合わせを試してみてください。ウィッグなしでも脱毛していることがわかりにくく自然に見えます。

●髪を短く切っておく

脱毛が始まると抜けた髪の毛が散らばるので、髪を短くしておくとよいでしょう。ウィッグを使われる方はそれに合わせた長さに、そうでない方はなるべく短くしておくのがオススメです。抜けた毛の処理が簡単にできますし、抜けた毛の量も気にならないので「こんなに抜けた!」というショックを受けずにすみます。

抗がん剤治療中はどんなウィッグを選べばいい?

通院で抗がん剤治療を行ったり、治療中も仕事を続けたりする場合、ウィッグを用意する患者さんが多いと思います。ウィッグには医療用とファッション用の2種類があります。2つの違いについて簡単にまとめると次のようになります。

【医療用ウィッグとファッション用ウィッグの違い】

医療用ウィッグ

長時間、頭皮に直接かぶることを前提に作られているため、ウィッグの裏側に、柔らかく通気性がよい素材が使われている。髪型のバリエーションやカラーはそれほど多くない。ファッション用に比べてかなり高価なものが多い。

ファッション用ウィッグ

髪の毛の上にかぶることを前提に作られているため、髪の量が全体的に少なく、分け目や襟足のカバー力が足りない(地肌が透けてしまう)。ウィッグの裏側の素材が医療用に比べて固い。髪型のバリエーションやカラーが豊富。3000円~と非常に安価。

治療中の頭皮はデリケートで傷つきやすい状態なので、予算に余裕があるなら医療用ウィッグを選びたいところです。フルオーダー品だと30万円~と少々お高めですが、既製品なら1~10万円、セミオーダーなら10~30万円くらいで購入できます。

【ウィッグが必要となる期間の目安】

治療の内容によって長くなる場合もありますが、ウィッグを必要とする期間はおおむね1年といわれています。医療用のオーダーメイドウィッグは、自分の頭の形に合わせて細かく採寸してくれるのでフィット感が違います。蒸れも少なく一日中つけていても快適にすごせます。髪質や色、長さなども治療前のように整えてくれるので、髪を失ったことを知られたくない場合は、心強い存在であるといえるでしょう。

一方で、ファッション用でも、ウィッグの下に専用のネットをつけることで、サイズを微調整でき、医療用と同じように頭皮を保護したり、分け目をカバーしたりすることが可能です。使用感は医療用より下がりますが、脱毛=安価でいろいろなヘアスタイルを試せる期間とプラス思考でとらえ、今までやったことのないヘアスタイルや髪色を楽しみながら、治療の期間を過ごすのもアリではないでしょうか。

【ウィッグを購入する際に気をつけるべきポイント】

頭にフィットするサイズを選ぶ。サイズ調節ができるものがオススメ

髪の生えているときに購入する場合は、髪が抜けて頭回りが小さくなることを想定してサイズを選びましょう。頭の大きさは、髪のあるなしで1~2cmほど変わります。髪の毛が生えそろうまで使うことも考えて、サイズ調節ができるものを準備すると安心です。

ウィッグスタンドを忘れずに

ウィッグを買う際は、ウィッグスタンドも一緒にそろえておきましょう。ウィッグスタンドはウィッグを保管するうえで欠かせないアイテムです。ウィッグの型崩れを防ぎ、ブラッシングなどのケアもしやすくなるため、ウィッグのもちが違ってきます。

医療用ウィッグを選ぶ際には、JIS認定がついているものを

画像引用元:日本毛髪工業協同組合
(http://nmk.or.jp/lp_medwig_bs/index.html)

最近はインターネット販売などでも医療用ウィッグを購入できるようになりました。しかし、中には「医療用」とは名ばかりの粗悪品も出回っています。2015年4月20日、経産省は医療用ウィッグに関するJIS規格を制定し、医療用ウィッグの明確な基準を定めました。医療用ウィッグを購入する際には、「Med・ウィッグマーク」という認証マークがついているものを選ぶようにしましょう。

JIS認証つき医療用ウィッグを扱うおもなメーカー
アンクス(アートネイチャー)
http://www.julliaolger.jp/ancs/
ラフラ(レディスアデランス)
https://www.aderans.co.jp/medicare/
スヴェンソン
https://ladys.svenson.co.jp/
リネアウィッグ・プラチナム(リネアストリア)
https://ilovewig.jp/lineawig
ライツフォル
https://www.reizvoll-medical.jp/

自治体によっては助成金が出るところもある

医療用ウィッグは高いけど医療費控除の対象になるのでは?と思いますよね。しかし、残念ながら現在のところ医療費控除の対象外となっています。病気の治療に直接関係ない、とみなされているからです。

しかし、自治体によっては、ウィッグの購入に対して助成金が支給されるところがあります。額は自治体ごとに異なりますが、1~3万円の補助を受けることができるので、抗がん剤治療を受ける際には、お住まいの自治体に助成金制度があるかどうか調べてみてはいかがでしょうか。

医療用ウィッグの助成金を支給している自治体一覧

「医療用ウィッグの購入費費用助成」(日本毛髪工業協同組合)

http://nmk.or.jp/lp_medwig_ur/

「脱毛」という副作用と上手につきあうコツ

心の準備をしていても、今まであった髪の毛が抜けてしまうのは、想像以上にショックな出来事です。脱毛が始まると、髪が抜けて外見が変わってしまう不安や、ベッドや枕に散らばった毛を見る不快感などから、ストレスを感じてしまう人も少なくないと思います。しかし、じつは、ストレスも脱毛の原因になるのです。

髪は抜けても必ず元に戻ります。安心して治療に取り組むことが大切です。治療中は、脱毛が始まってから元通りになるまでの期間を、できるだけ快適にすごす工夫をしてみましょう。

【脱毛期間を快適にすごすための工夫】

●ナイトキャップをかぶる

寝ている間の脱毛は想像以上に多いです。朝起きたときに、ベッドや枕が抜け毛だらけになっているのを見てびっくりしてしまうことも。寝る前に通気性のよいニットキャップなどをかぶることで、抜け毛が散らばるのを防ぐことができます。

●カーペットローラーで楽々お掃除

枕元にカーペットローラーやガムテープを常備しておきましょう。コロコロ&ペタペタするだけで散らばった髪を簡単にお掃除することができます。また、枕カバーの上に手ぬぐいを巻いておくと抜け毛の処理がさらにラクになります。

●シャンプーは優しく地肌をいたわって

脱毛中は頭皮が敏感になっています。刺激の少ないシャンプーを選び、爪を立てずに優しく洗って地肌を清潔に整えましょう。ほとんどの髪は抜けてしまうので、リンスは不要です。もし使う場合は、髪の先だけにつけるようにしましょう。

●頭皮がヒリヒリ、ムズムズするときは外用薬や保湿剤でケアを

脱毛が起こると、抗がん剤の作用で毛穴が炎症を起こしてヒリヒリしたり、頭皮が乾燥してムズムズしたかゆみを感じたりすることがあります。このような症状は、外用薬や保湿剤で緩和することができますので、すぐに担当医師に報告してください。

●脱毛後の髪質はゆっくりと元に戻るので安心を

脱毛後に生えてくる髪質が柔らかくなったり、くせ毛になったりする場合があります。これは、ダメージを受けた毛母細胞が再生する際、最初は数が少なかったり、細胞の並び方が不規則になってしまったりすることから起こります。しかし、髪が何回か生え替わるうちに、毛母細胞の数や並び方も元通りになるので、1~2年後にはほぼ元の髪質に戻ります。

脱毛の有害事象のグレードは?

がんの化学療法により生じる副作用などの好ましくない兆候や症状、疾患は広い意味で「有害事象」と定義されます。副作用だけでなく、有害反応なども含まれる有害事象は、重症度をグレードで定義し、対処の目安としています。

例えばグレード1の有害事象は、「軽度の有害事象」であり、治療の必要はないけれど、症状のない検査値の異常や画像所見以上などが見られる段階。グレード2の有害事象は「中等度の有害事象」として、最低限の治療や局所的治療が必要な段階。グレード3に関しては、高度の有害事象で入院や手術、内視鏡治療、輸血などで治療が必要となる顕著な症状が出ている高度の段階を示します。

脱毛は、有害事象の中でも治療の必要はないものの、患者さん本人の社会心理的な影響やカツラ・ヘアピースなどの使用といった日常生活への影響が生じるタイプの有害事象です。

例えば、米国National Cancer Institute(NCI)のCancer Therapy Evaluation Program(CTEP)から公表された2009年5月の有害事象をまとめた「有害事象共通用語規準v4.0日本語訳JCOG版」では、化学療法によって起こり得る、グレード1に定義される脱毛の有害事象は次のように定義されています。

遠くからではわからないが近くで見ると正常よりも明らかな50%未 満の脱毛; 脱毛を隠すために, かつらやヘアピースは必要ないが, 通常と異なる髪形が必要となる

出典: 「有害事象共通用語規準 v4.0日本語訳JCOG版 2017年9月12日版(本体及び解説ページの日本語訳と日本語訳に関する注意事項を記載したPDFファイル)」

また、グレード2の有害事象としては、次のように基準が設けられています。

他人にも容易に明らかな50%以上の脱毛; 患者が脱毛を完全に隠したいと望めば, かつらやヘアピースが必要; 社会心理学的な影響を伴う

出典: 「有害事象共通用語規準 v4.0日本語訳JCOG版 2017年9月12日版(本体及び解説ページの日本語訳と日本語訳に関する注意事項を記載したPDFファイル)」

脱毛に関しては、グレード3以上の入院や手術など何らかの治療が必要となる有害事象に当てはまるものはありません。しかしながら、脱毛は抗がん剤治療を開始してから薬剤投与後に再び発毛するとはいえ、自毛を完全に回復するには1年以上の期間がかかることなどから、精神的なサポートや、日常生活への配慮などが必要となる有害事象と言えるでしょう。

この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献

●国立がん研究センターがん情報サービス「脱毛」(診断・治療)

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/attention/chemotherapy/side_effect/alopecia.html

●サバイバーシップ「抗がん剤治療と脱毛」

http://survivorship.jp/datsumou/know/03/index.html

●キャンサーネットジャパン「化学療法をしたみんなに脱毛のことを聞いてみた」

http://www.cancernet.jp/datsumou/

●エーザイ ブレケアガーデン「毎日のヘアケアのヒント」

http://brecaregarden.jp/pdf/HAL1089AKA.pdf

●日経メディカルがん診療UP TO DATE「脱毛」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/canceruptodate/utd/201310/533236.html

●国立がん研究センター中央病院 生活の工夫カード「脱毛(かつらの選び方①)」

https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/division/support_card/6.pdf

●国立がん研究センター中央病院 生活の工夫カード「脱毛に備えるために」

https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/division/support_card/8.pdf

●がんナビ「『医療用ウィッグ』の失敗しない選び方」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/report/201011/100547.html

●医療用ウィッグ「安心・安全」マーク

http://nmk.or.jp/lp_medwig_ur/