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抗がん剤の副作用と後遺症の違い

抗がん剤投与後に引き起こされる後遺症にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用と後遺症にはどのような違いがあるのか説明します。

抗がん剤の副作用と後遺症の違いとは

抗がん剤にはいろいろな副作用がありますが、ほとんどの副作用は時間の経過とともに軽減され、最終的にはなくなります。しかし、なかには治療後も症状が緩和されず後遺症となって残るものがあります。「末梢神経障害」「腎機能障害」「肝機能障害」などがその代表です。

「腎機能障害」「肝機能障害」の場合は支持療法の発達により、治療中に適切な処置を受けるれば後遺症のリスクを回避できるようになりました。ただ「末端神経障害」には有効な対策や手段が少なく、その後遺症が治療後何年も続いてしまい日常生活に支障をきたす場合もあります。

抗がん剤治療を行ったからといって必ず後遺症が残るわけではありませんが、治療中や治療後に症状が出た段階で、なるべく早く担当医に相談するようにしましょう。

抗がん剤による「末梢神経障害」とは

末梢神経とは、中枢神経(脳と脊髄)から枝分かれして全身に張り巡らされる、細かい神経網のことです。手足の筋肉や皮膚などに広く分布し、体内の情報伝達を行う重要な役割を担っています。この末梢神経が、ダメージを受けたり、正常にはたらかなくなったりする状態を末梢神経障害といいます。

末梢神経障害は、抗がん剤を投与することで起こる後遺症のひとつです。抗がん剤の副作用は、血液細胞や胃腸の粘膜など細胞分裂の活発な部分に薬が影響を及ぼすことで起こるケースが多く、細胞分裂を行わない神経細胞や筋肉細胞はダメージを受けにくいと考えられてきました。

しかし、一部の抗がん剤に含まれる成分は、神経細胞同士をつなぐ神経線維や神経細胞そのものに直接ダメージを与えて、そのはたらきを阻害してしまうことがわかってきました。その理由は、それらの抗がん剤が、がん細胞の分裂を阻止するために狙い撃ちする特定のタンパク質が、神経線維や神経細胞にも含まれているからです。

末梢神経には、痛みや触感を伝える感覚神経、全身の筋肉を動かす運動神経、体温や血圧、内臓のはたらきを調節する自律神経があり、末梢神経障害の傾向も大きく3つに分けられます。

感覚神経に障害が現れた場合の症状

感覚神経は体が感じる五感や痛みを脳に送るはたらきがあります。この神経に障害が現れると、外界からの感覚に違和感を覚えることが多くなり、手足に痛みやしびれを感じる、五感や温度感覚などに異常をきたすといった症状が現れます。

  • 手や足に疼痛(ずきずきするような痛み)を感じる
  • 手や足がピリピリとしびれたようになる
  • 手や足の感覚がなくなる
  • 味覚および臭覚の障害
  • 難聴・耳鳴りなどの聴覚障害

冷たさやひんやり感といった「寒冷刺激」が、症状を悪化させる場合があります。手足を冷やしたり、冷たいものを急に飲んだりせず、洗面や手洗いは可能な限り温水を利用し、体を温かく保つようにしましょう。

感覚が鈍くなっているので、熱いものに触っても気づかずやけどをしてしまう場合もあるので注意が必要です。調理中に鍋やフライパンに直接触れることはさけ、冬場はストーブや湯たんぽでやけどをしないように気をつけましょう。低温やけどには特に注意が必要です。

運動神経に障害が出現した場合の症状

全身の筋肉を動かすはたらきをもつ運動神経に障害が現れると、体の動きをうまくコントロールできなくなります。体全体が動かなくなるような状態になることはありませんが、手先や足先、四肢の動きが鈍くなる、力が入らなくなるといった症状が現れます。

  • 指先がうまく使えない
  • 手や足の力が入らない
  • 歩行がうまくできずつまずく
  • 坂道や階段が上れなくなる
  • まぶたが重くなる
  • 目の焦点が合わない

想像以上に体をうまく動かせなくなります。階段の昇り降りもつらいほど脚力が低下することもありますし、足先を少し上げる動作もこれまでどおりにできなくなる場合もあります。ちょっとした段差にもつまずきやすくなるので、転倒やケガには十分注意しましょう。

脱げやすいスリッパやサンダル、ヒールの高い靴は避けるのが無難。家のなかでは滑りやすい場所(フローリングの床やお風呂場)に滑り止めマットを貼るなど、もしものときのために十分な安全対策をしておきましょう。

自律神経に異常が現れた場合の症状

自律神経は、体温や血圧、内臓を正常に動かす等、自分で意識しなくても体を自動的に管理してくれる役割をもつ神経です。受け持つ役割が多岐にわたるので、この神経がダメージを受けると体のいろいろな部分に障害が現れます。

  • 手や足が冷たく感じる
  • 汗が異常に出る(あるいは汗が出ない)
  • 体がほてった感じがする
  • 低い姿勢から立ち上がるとき、めまいや立ちくらみがする
  • 腹痛や便秘

自律神経失調症の症状に似ていますが、末梢の自律神経が正常にはたらかなくなるだけなので、精神的な症状は現れません。ただ末梢神経障害という後遺症であることに気付かないケースもあるので、ご家族は特に注意して観察してあげるとよいと思います。

腹痛や便秘はそのままにしておくとイレウス(腸閉塞)になる恐れもあります。健康な体のときとは状況がことなりますので、不調だなと感じたらすぐ担当医に相談するようにしましょう。

低い姿勢から立ち上がったときに血圧の調節がうまくできず、ふらつきやめまい、立ちくらみなどが起こる「起立性低血圧」は、思わぬケガを招く場合もあります。起き上がる、立ち上がるといった動作はできるだけゆっくり行うようにしましょう。

末梢神経障害が副作用として出やすい抗がん剤の種類

抗がん剤の種類や量、また個人差によって末梢神経障害が後遺症として出るかどうかは大きく変わりますが、一般的に末梢神経障害を起こしやすいと言われている抗がん剤を一覧にまとめました。

抗がん剤の種類 一般名 商品名 症状
タキサン製剤 パクリタキセル タキソール 手足のしびれ、痛み、感覚が鈍いなど
  ドセタキセル タキソテール 手足のしびれ、痛み、感覚が鈍いなど。パクリタキセルよりも末梢神経障害の発症頻度は低い
ビンカアルカロイド製剤 ビンクリスチン オンコビン 手足のしびれ、感覚が鈍い、つま先が上がらない、便秘など
  ビノレルビン ナベルビン 手足のしびれ、感覚が鈍い、つま先が上がらない、便秘など
白金製剤 オキサリプラチン エルプラット 手足のしびれ、口やのどのしびれ、感覚が鈍い、歩きにくいなど
  シスプラチン ブリプラチン 手足のしびれ、痛み、聴力障害など
分子標的薬 ボルテゾミブ ベルケイド 手足のしびれ、痛み、起立性低血圧、便秘など
  レナリドミド レブラミドカプセル 手足のしびれ、痛み、感覚が鈍い、起立性低血圧など

乳がん治療後の後遺症はどうだったか/緒川みお

以下、実際に乳がんで抗がん剤治療を行った経験のある緒川さんの実体験を書いていただきました。

膝から下のすねの部分や前腕部に違和感

後遺症に関してはかなり個人差が大きいと思いますが、わたしのケースをお話しします。特に症状の出やすい抗がん剤を使ったわけではありませんが、2回目の投与が終わってしばらくしてから、膝から下のすねの部分や前腕部に違和感を覚えるようになりました。そこだけ皮膚感覚が鈍くなっていたのです。

しかも、その部分を触ると、指先に向かってスーッとしびれが広がるような感覚がありました。ちょうど、長い時間正座してしびてしまい、感覚がなくなってしまった足に触れたときのような感じです。

10年経った今でもしびれが残っている

痛みを伴うしびれに関してはビタミンB12製剤を投与することで症状が緩和されるそうですが、わたしの場合は感覚が鈍化しているだけなので特に処置はナシ。皮膚感覚は時間が経つにつれ元どおりになりましたが、触ったときにしびれる症状は今も続いています。日常生活にはまったく影響ないのでまあいいか、という感じです。

一見、抗がん剤の後遺症のように見えて、原因が違う場合もあります。皮膚感覚に違和感を覚えるようになったころ、夜中や明け方、急に体が熱くなり、汗が止まらなくなる症状が起こるようになりました。

末梢神経障害からくる発汗異常かと思い担当医に相談したところ、ホルモン剤の副作用だと診断されました。当時わたしは、ホルモン療法を始めたばかりだったのです。安易に自己判断せず、まず医師に相談することが大切なのだとつくづく感じました。

この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献